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08/03/12 00:34
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11 : ストラップ
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「静かに」と今述べたが、しかしそれは静かに感じただけで、実際の音量の事では無い。将軍の肺活量と、篳篥の精度の為、騒がし かった空間全体に、その調べは届き亙った。人々は皆、その美しい旋律に気付き、思い思いの動作を止め、自然と将軍の篳篥を愉し む事になった。 静かに始まったそれの優美さに、人々は皆、雅を感じ、その涼しさを味わう。清涼感すら溢れるその音色はどこか楽しげで、心地好 いと思うほどなのだ。私も、場にいる他の人も皆、于将軍の腕前に驚いてしまった。それは無骨な音楽を想像していた我々の考えを 、全く打ち砕くもので、腹の底から勇気が湧いて出る様な、そんな優しくも勇ましい、何とも陽気な曲であった。場の空気がうねる 様な感じという表現で、お解かり戴けるだろうか。正しくその様な感じであった、としか謂い様が無い。 于将軍の指は、一見ゆっくりと、しかし実際は恐るべき速さで、即興の楽曲を紡ぎ出していった。将軍の真面目に過ぎる性格が、基 本的奏法を反復して練習させた為であろう。将軍の演奏は、基本に裏打ちされた確かな技術を基とした、大変素晴らしいものであっ た。 我慢が出来なかったらしく、最初に竽を担当する楽師が演奏に加わると、琵琶が入り、笙が入り、打ち物が入り、筝が入りと、 次々と多くの楽師達が将軍の演奏に加わっていった。将軍の演奏には、そういった気安さがあり、そして誰もが思わず参加したくな る様な、そんな不思議な魅力があったのだ。虞小父でさえ、「やられたな」という顔で、笑いながら酒を煽り、于将軍の音楽に酔う 事を楽しんだ位だった。 多くの楽師達が加わり合奏となると、于将軍は音量を落とし、主旋律を他に任せ、周りに合わせる様な吹き方に変更をする。それで も于将軍の篳篥は、要所要所で存在感を示し、滾々と美しい伴奏を繰り出した。 この頃になると、場にいる人に、愉しげな表情をしていない者は、唯の一人しかいない、という状態だった。無論その一人とは、無表情な于将軍自身の事である。 席にある人皆が、にこやかな表情をしていた。誰もが楽しんでいた。演奏に体を動かさずにおれる者等、最早唯の一人もいなかった のだ。私は、こんなに皆が愉快に笑って聴いた演奏を、他に知らない。 演奏が終わると、皆は一瞬遅れて喝采し、于将軍と提案をした虞小父には、褒美までが出される事になった。私は于将軍に、演奏が素晴らしく感動をしたと、興奮気味に伝えたが、将軍は 「捕虜が仕方なく小手先の技術で吹いただけだ。感動する事など一つも無い」 と、素っ気無く応えたのみであった。
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08/03/12 00:36
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12 : ストラップ
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「曹公の治めた魏国とは、どの様なところだったのでしょうか?」 少年の残酷さで、私はこう、于将軍に尋ねてみた事がある。将軍の強い望郷の念を知っていたならば、出来た質問では無かっただろう。 私の問いに将軍は一度だけ唸り、そして 「平坦で長閑な風景の中に、山らしくある山、丘らしくある丘、川らしくある川と、豊かな自然が混在している風靡な土地だよ。雲 は美しい形を毎日違えて見せ、その形には何とも言えぬ趣がある。空は抜けるように青く、地は雄大で、風は頗る心地好い。雨が降 り過ぎる事もなければ、日が照り過ぎる事も無い。暑過ぎる事も無ければ、寒過ぎる事も無く、大変に心地好い。風光明媚な上に過 ごし易い、暮らすには理想的な土地だ」 と、少し懐かしそうに答えた。 今考えると于将軍は、雲の形にまで「美しい」という表現をしている。帰郷を願う人は皆、異常なまでにその土地を美化させたがるが、これは望郷の念としては、かなりの重度の美化であろう。 「その様な事よりも、曹公自身の治国はどうだったのです?」 と、私が聞くと、 「人々は皆勤勉で、田畑を耕す事に喜びを覚えている。兵達は屈強で、軍規に乱れなく、訓練を拒む者はいない。食料の不足も無け れば、他の禍の種も無く、皆がにこやかな笑顔で暮らしていける理想の場所、と、そうなりうる地だと思う。魏王もそう思われてい るが故に、その実現の為の勤勉を惜しまれないのだよ」 と答えた。 「伯先。私はここを悪い土地だとは謂わぬが、しかし捕らわれの身であるし、懐かしい人もいない。気候も何だか古傷に痛むし、水 の味が馴染まない。だから、私にとっては中原こそが最良の土地なのだよ」 と寂しく謂う将軍の顔を見た時、初めて私は将軍が故国を酷く懐かしんでいる事を知った。そして、我々との生活が、将軍にとっては苦痛である事も。
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08/03/12 00:37
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13 : ストラップ
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私は当時、于将軍の邸宅の裏庭で、隠れて剣術の稽古をしていた。無論隠れてせずとも良かったのではあるが、そこは少年時代の気 恥ずかしさで、何と無く人に努力を見せる事を好まなかったのである。下手だという事を隠したかったのかも知れない。 ある日の夕暮れ。私が稽古を一段落させ、休憩をしていると、そこにひっそりと于将軍が現れた。他に人など、普段から多くはいる 筈も無いのに、何故か人に隠れる様にして来た感じがしたので、私は非常に慌て、咄嗟に隠れてしまった。何が起こるのかと息を殺 し、じっと伺っていると、将軍は懐から篳篥を取り出し、そしてそれを突然に吹き始めた。 静けさを切り裂く様に、甲高い音で始まった将軍の演奏の、何と荒々しかった事であろう。それは嵐が吹き荒ぶ様な荒々しい、激し い音の連続だった。しかもそれがきちんと楽曲の体裁を保っているのである。 隠れていた私は、元よりじっと聴いているつもりではあったが、その始めの一小節を聴いた時、既に金縛りにあった様に動けなくな ってしまった。それはそれ位衝撃的な演奏だったのだ。今までに聴いた事のある演奏とは、迫力の次元が違い過ぎた。 出される音の高低は無茶苦茶で、音域は一つの演奏とは思えない程幅広い。篳篥という楽器が、これ程高い音を出せるとは知らなか ったし、これ程低い音を出せるとも知らなかった。そして、それはとても真似が出来ない程早く、目まぐるしい勢いで音楽が紡ぎ出 された。 私は、力強い音の奔流に圧倒されてしまい、口を閉める事を忘れてしまっていた。激しく吹かれるその音は、裏庭の木々をざわめか せる程だった。将軍の篳篥から発せられる音圧に、身体を押え付けられる様な烈しさだ。私はこの時、あの人の演奏を、自分が言葉 として「凄い」としか表現できない事を感じてしまう。しかしこれは、私の言語能力に問題があった訳では無いだろう。それだけ将 軍の気迫が凄まじかったのだ。 篳篥は、激しく吹き鳴らされたが、その荒々しさにも関わらず、大きな悲しみが感じられた。篳篥の高い音、くぐもった音は、将軍 の心がそのまま音として発露していたのだ。そして私は理解していた。今、笛を吹く事で、将軍は泣いているのだと。 音は将軍の荒れた心であり、調は将軍の悲しみであったのだ。その演奏は、叫々とした悲痛の声なのだ。強い望郷の念が、将軍にこの曲を吹かせたのであろう。 将軍が祝勝の時に吹いた愉しげな篳篥を、自身では「小手先の技術」と言った。その時は将軍の謙遜と思ったが、今はそうでは無か った事が良く解る。確かにあれは、この時の様な、噭々と魂を表に出す様な演奏では無かったのだ。唯の技術的演奏にしかすぎ なかった。
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08/03/12 00:38
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14 : ストラップ
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少年時代の私は、大人の「男」は泣かないものだと思っていた。 しかし今は解る。 その精神構造が、涙を流す事を許さないだけに過ぎないのだ。泣かないのでは無く、泣けないだけに過ぎない。 男と雖も、悲しい事もあれば、辛い事もある。その様な時に、声を出して泣けたら、どんなに楽な事であろう。意地も誇りも、何も かも捨て去り、いっそ大声を上げて泣き叫べば、どんなに救われるかわからない。 でも駄目なのだ。 一滴の涕さえも、零れる事は無い。 男は、己に男である事を科した時点で、己の為に泣く事をその精神が許さなくなるのだ。本人がどんなにそれを望んでも、涙を流す 事は許されない。流される事は無いのだ。只、唯、胸の張り裂けるような思いに蜿蜒と耐え、悲しみを乗り越えるしか無い。男が泣 く事を許されるのは常に、他人の痛みの為であるか、人の優しさに触れた時でしか無いのだ。男とは、何と不器用な生き物であろう か。 男は泣く事を許されぬが故に、大きな悲しみに耐えるには、別の手法を見つけねばならない。 そして于将軍の場合は、それが音楽であったのである。
仮に取られた。この為に于将軍は、魏に帰される事となった。 于将軍は喜び魏に帰ったが、矢張りそこでも已む無い降伏を詰られたという。于将軍は帰国の後、多くの心無い辱めを受け、それに 憤り、その為病を発症し、死去されたと聞いている。我が軍との架け橋になれたかも知れぬ人物であった事を考慮せずとも、残念な 事だと思う。 将軍は帰国の際、初めて私に笑顔を見せてくれた。今ではそれも懐かしい。 于将軍は募り積もった故国に帰り、何を思ったのであろうか。 私には想像する事しか出来ない。
了
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08/03/13 20:33
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15 : ドリーム
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ストラップさん久し振り、これは三国志ですか。 流石は得意分野ですね。 それも高度な内容で綴られていて、それと比較すると私のショートショート なんかは子供の、お遊びのように思えて来ますよ(汗(~_~;))
漫画で現在連載中の(覇)と云う劉備玄徳を主人公としたものがあります。 原作者は武論尊氏。設定は劉備玄徳は倭人(日本人)であったという 設定になってる所が面白いですね。
最近では飛躍し過ぎて、なんと邪馬台国から軍船を率いて卑弥呼が やって来て、劉備玄徳の活躍に乗じて中国制圧を企む筋書きになっ来ました。 ストラップさんに、言わせたら邪道ですかね(笑)
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08/03/14 03:19
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16 : ストラップ
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僕の文章にしては柔らかいんですけど、今読み返すと不親切な作品ですね。 短く音楽小説を書いてみようと思って書きました。タイトルは「故国」です。
「は」最初の頃はチラッと見たのですが、未だ続いていたんですね。 「下調べをあまりしてないのかなぁ〜」とは思いましたが、あのぶっ飛んだ内容は悪いと思いませんでしたよ。 慥か第一話から卑弥呼出てますよね?
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08/03/15 09:43
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17 : ドリーム
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ストラップさんも読んでいたんだ。 うんうんそういえば、最初の頃、卑弥呼出ていたような気がする。
私はビックコミックとスペリオールは、創刊号から読んでますが ???ヤバ 時間です。続きは帰って来てから。
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08/03/15 22:24
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18 : ドリーム
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あのゴルゴ13が今度深夜放送で劇画で、放送されるようです。 以前は高倉健、千葉真一で二度実写版で映画になったけど ヒットしませんでしたね。 なんたって口数が少ない主人公ですから、原作と同じように 主人公の出番が少ないのが原因かも(笑)
かわぐちかいじ氏の太陽の黙示録、スケールが大きく面白いですね。 その他に『沈黙の艦隊』ジパング』など有名ですが。
最近は漫画からテレビドラマ、映画化するのが多いですが それだけ内容が濃いんでしょうね。 日本の漫画が世界中で、翻訳出版してるのが分かるような気がします。
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08/03/16 00:26
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19 : ストラップ
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大分テーマから外れてきてますね(汗)
>>17 「は」最初の方は見ていましたよ。 「趙雲が女性だった!」のあたりまでですけど(汗)
>>18 『沈黙の艦隊』はあんまり好きじゃ無かったんですよね。潜水艦好きなのに。 かわぐちかいじ氏のイデオロギーに共感できないのが原因かもしれません。でも物語の見せ方は秀逸でしたね。 『ジパング』は艦長が降りるあたりまで読みましたが、それ以降はさっぱりです。 昔『イーグル』という漫画を連載していましたね。 未だ手塚治虫や石森章太郎が連載していた頃は、偶に読んでいましたけど、今は殆どその雑誌は読まないです。
自分、潮書房時代の宗方教授は好きだったのですが(横山光輝が「三国志」を書いていた漫画雑誌に書いていたのです)、ビックコミ ックに移ってからはパワーダウンした様に感じ、もう単行本すら買ってないです。
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10/05/10 15:35
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21 : 智太郎
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帰りの修善寺道路のドライブインいちごプラザで伊豆の土産品であるわさび漬やひものを購入した時の写真ですが、靜岡 県東部地方:伊豆も自宅から車で20分あれば、たどり着く地域でありますが、私共、3人は近所のK氏さんの病気完治を待ちながら、 起業 独立をも延期中ですが、伊豆は風光明媚で気候も最高であり、この地を都内等から、たまに来るレジャーに使う地だけでは、 もったいなさ過ぎると痛感し、今の所は「太陽光発電機設置展示場」「介護支援協力」「障害者・高齢者介助に伴う食事援助」と銘 打ってますが、「伊豆という地域」をも、何かしらに縁させて、網羅した起業 独立のネタに出来ればと・・・私は感じたのでした。
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