瞬間 (6)
週末はよく奈良に行った。その日は、春日大社へと向かった。春日大社は参道が特に良い。幅広い石砂利の両側に苔むした灯篭、その背後の鬱蒼とした木立、それらの印象が一体となって、神域としての緊張を高めている。夕方近くで空は黄昏ており、参道には誰もおらず、少し贅沢な気分であった。 砂利を踏みしめる音が全て聞こえてくる。その音を確認しながら、神社の鳥居をくぐった瞬間、風が吹き、雪が舞い降りてきたのである。雪は、砂利と灯篭を花びらのように彩り、参道の奥を曖昧にした。 自分はコートの襟を立て、瞬間、風間杜夫になった(昔、そのような月桂冠のCMがあったのである)。なんという粋な計らいであろうかと春日神に感謝し(…