第86話 花残 act.23 side story「陽はまた昇る」
深淵より捜して、英二24歳4月第86話花残act.23sidestory「陽はまた昇る」風ふれる頬、洗い髪が梳かれて凍える。かきあげる指冷たく髪からんで、その涯に英二は月を見た。「…なんだろな、俺?」零れた声に月が映る。雲流れゆく光の夜、凭れた鉄柵も冷たく硬い。もう4月になった、それでも冷えてゆく夜の屋上に煙草咥えた。かちっ、かすかな金属音、火が燈る。風ゆれる光そっと近づけて、吸いこむ香ほろ苦い。苦いまま含んで、ふっと息吐いて煙が昇る。『正義感と恋愛感情、どちらの為に僕といてくれたの?』君に言われたこと、ずっと考えている。考えて考えて、考えて、おかげで夕飯なんだったのかも憶えていない。「…周太、夕飯はなに食べた?」呼びかけた声、あわく月光とける。もし君と食べたなら憶えていたろうか、幸せだった時間のように。けれど...第86話花残act.23sidestory「陽はまた昇る」