「召しませ、絶愛!」(一)
紅いろづき、落ち葉舞い、風に鈴虫の鳴き音がまぎれて、夜がいっそう近くなる。そんな秋深まる神無月のとある日のこと──。これは、凄絶な運命に結ばれたふたりの少女に生じた、世にも不思議な物語である。****姫宮邸には、誰も知らないメニューがある。このお屋敷の主・姫宮千歌音のために饗される食事は、ただ一人の口にあうために、多くの人手が介在している。和洋中の一流のシェフを揃え、管理栄養士に献立を考えさせ、名器に彩りよく盛られて配膳される。すべては、この館の侍女長の抜け目ない差配のもとで。メニューに主が文句をつけたことなど一度たりとてない。だが、そんな当たり前は、とあるひとりの平凡な少女の登場で変わりつつあるのだった──…。「乙羽さん、きょうのお夕食、要らないわ」麗しい唇から発せられたその言葉は、如月乙羽の胸にぐさりと刺さ...「召しませ、絶愛!」(一)