第86話 花残 act.25 side story「陽はまた昇る」
現実の先を、英二24歳4月第86話花残act.25sidestory「陽はまた昇る」雪はすこし融けていた。「は…っ」息吐いて白くなる。残る雪に凍てつく大気、青空に英二は微笑んだ。―やっぱりいいな、奥多摩は、仰ぐ空、冴えた風に青く光る。雲まばゆい梢そっと零れる雪、懐かしい道を歩き出した。ざくっ、ざくり、踏みしめる道は雪が硬い、一昨日から融けて凍てついたのだろう。まだアイスバーン光る四月の朝、馴染んだ登山靴に冷気が懐かしむ。いつも歩いた稜線の空、かすかに甘い渋い山の風、ただ懐かしい想いに声が映った。『英二は、次のお休みはいつ?』訊いてくれた君の声、たった昨日のこと。まっすぐ黒目がちの瞳が見あげてくれた、けれど吐いてしまった嘘に微笑んだ。「ほんとは今日だよ、周太…」ひとりごと唇かすめて、嶺風ほろ苦く甘い。この風に君も...第86話花残act.25sidestory「陽はまた昇る」