短篇小説「ABCマートの店内でだけ流れてるラジオ」
強く細かな雨がノイズのように降り注ぐ平日の昼下がり。差した形跡のない白い粉を吹いたビニール傘を手に、濡れそぼった姿で我がオフィスの会議室に現れた自称23歳の女は、面接官である私の目の前で、恐るべき志望動機を語ったのであった。「《ABCマートの店内でだけ流れてるラジオ》番組ってあるじゃないですか?」 聴取率30%台の番組を語るようなその自信にあふれた声のトーンに、私は「ですね」としか言えなかった。「わたし、あの《ABCマートの店内でだけ流れてるラジオ》のパーソナリティーになりたいんです。ここでなれますか?」 たしかに、当社はアナウンサーが多数所属する芸能事務所であり、私はその採用担当者である。そ…