短篇小説「言霊無双」
目の前を歩いている人がずっと後ろを向いているように見えるのは、シンプルに彼女が後ろ向きな考えを持っているからだ。人は後ろ向きな思考を続けているあいだは、文字通り顔面が後ろを向いてしまうようになった。 それに対して、先ほどから僕の右脇を歩いている男をどんなにジロジロ見つめてもこちらを振り向かないのは、おそらくは借金で首が回らないせいだろう。 ネットやSNSの流行により、言葉によって人が傷つき時には命を失うほどまでに言葉の力が増大した。その結果、言葉は人の身体を容赦なくコントロールするようになった。それは古来「言霊」と呼ばれる言葉の霊力がかつてなく強まった結果だ。 後ろ向き女と首回らな男、この二人…