b賞の名句㉕ 『一夜はやどせ山のいぬ』
「萩原や一夜はやどせ山のいぬ」芭蕉は旅の途中で萩の枝の下に潜り込むようにして野宿したのだろう。紙子〈紙でできた防寒具〉を頼りに蓑などの寝具にくるまり萩ごしの月を眺めていた気がする。「草臥れて宿かるころや藤の花」の句もそうだが野宿はしょっちゅうだったんだなあと老体へのダメージを考えてしまう。ところでこの句の注目点は「山のいぬ〈犬〉」ではないだろうか。今は絶滅したとされる日本狼だが、芭蕉の時代には山犬〈野犬〉のような動物として獰猛ではあるが人間には身近な存在だったのだろう。アメリカの西部劇では焚火で暖を取りながら寝るカウボーイを遠巻きにして吠えるコヨーテの声を連想してしまう。芭蕉の静謐な世界と比べ思わず笑みが浮かぶ。日米のパフォーマンスの差が歴然ではないか。コヨーテを黙らせた大谷翔平の貢献度はどれほどのものか...b賞の名句㉕『一夜はやどせ山のいぬ』