神無月の巫女二次創作小説「禁色の圃(ほ)」(陸)
──いま、その人っ子ひとり誰もいない秋の田野に、姫子は視線と意識を戻す。あの夏の日に思わず目を細めた陽光の眩しさもなく。夕暮れ時の黄金の稲穂の原を瞳の大きさの範囲いっぱいに受け入れながら。太陽の少女は思う。貴族たちの信仰する黄金の光り輝く極楽浄土、そんなものが、ほんとうにあるのか分からない。罪深く、仏の信仰心も篤くない自分に、神々しい来迎の使者が来てくれるはずもない。疾しいことをしてもなお、あの世で救われるなどと世迷い言ではなかろうか。この一度限りの人生を精いっぱい生きてこそ、価値があるというのに。別世界で人生の過ちを正せるというのなら、人はこの生身の人生に責任を負わなくなるだろう。この身も、魂も、外ツ国(とつくに)からもたされた仏ではなく、この国に太古からおはす神々に捧げられているのだ。けれど、いま、生きてい...神無月の巫女二次創作小説「禁色の圃(ほ)」(陸)