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散文に関することなら、どんなことでもOKですので お気軽にトラックバックやコメントしてください。 ◆散文とは? 韻律・字数・句法などに制限のない通常の文章をいう。小説・随筆・日記・論文・手紙などに用いられる文章。?コトバンク・大辞林 第三版の解説より(http://goo.gl/gkVmht) ※宣伝目的のブログや2chまとめ等の転載ブログは非表示にさせていただきます。あしからずご了承くださいませ。
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散文の記事

1件〜50件

  • あなたのとりこ 473
    2020/07/06 09:02
    あなたのとりこ 473

    「出雲君が会社を辞めるし、その上に片久那制作部長も六月一杯で辞める事になったと聞いて、お先真っ暗になって放心状態に陥ったんだな」  日比課長が少しからかう口調で袁満さんの心理解析をするのでありました。袁満さんは日比課長の方に顔を向けるのでありましたが、特に抗弁する気配も見せず、焦点の良く定まらないような目で日比課長をぼんやり眺めるのでありました。これはどうやら本当に、放心状態と表現してもあながち外れていない状態でありますか。 「まあ取り敢えず一息入れて、落ち着いてくださいよ」  真向いの均目さんがビール瓶を少し傾けて袁満さんの方に差し出すのでありました。袁満さんは条件反射的に自分のグラスを持ち上げて、均目さんの酌を受けようとするのでありましたが、グラスの中身は殆ど減ってはいないのでありました。乾杯した時に少し口に含んだけれど、その後はグラスを卓上に置いた儘にしていたのでありましょう。..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 472
    2020/07/03 09:02
    あなたのとりこ 472

     甲斐計子女史がそう詰った後で舌打ちするのでありました。 「いや俺は、どっちも可能性があるなと思うものだからさ」  日比課長は急いで云い訳するのでありましたが、その言は虚ろに響いただけでありましたか。寧ろ甲斐計子女史は日比課長をすっかり頼りにならないと見切ったようで、真向かいに座っている頑治さんの方に眉尻を下げて眉根を寄せて、それから下唇を僅かに突きだして、日比課長に対するがっかり感と侮りを表情で表わして見せるのでありました。 「土師尾常務は軽忽で己を知らない愚か者で、尚且つ見当外れの自信家でもあるから、自分だって片久那制作部長に引けを取らない有能なる人間であると勘違いしていている節がある。まあ、でも実は大いに引けを取っている事を自覚していて、一生懸命見栄を張っているのかも知れないけど。しかし兎に角、片久那制作部長の居なくなった会社を自分が充分動かしていけるだろうと云う、虚けた自信と..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 471
    2020/07/01 09:03
    あなたのとりこ 471

    「社長も会社の金を勝手に遣いこんで株を遣っていたと云う弱みを握られたから、片久那制作部長が会社を辞めるとなると、一面でホッとしているところもあるだろうし」  均目さんが卓上に置いたジョッキを両掌で触ってその冷たさを楽しんでいるような手付きをしながら、那間裕子女史の言を補足するような事を云い添えるのでありました。 「そう、それがあるものだから社長は片久那さんを冷遇しようとして、会社を自分から辞めるように仕向けたんだろうからね。その後で弱気になったとしても、是が非でも片久那さんを引き留めに掛かるかと云うと、それはちょっとどうかしらねえ」 「片久那さんが居なくなるとすっかり土師尾さんの天下になって、社長には適当な事ばっかり云って誤魔化しながら、自分には好都合な事ばかり、あたし達には無体な事ばかり遣り出すに決まっているわ。社長の方も会社の金を自分勝手に使い放題になるし」  甲斐計子女史はお..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 470
    2020/06/29 09:02
    あなたのとりこ 470

    「まあ、すぐに辞めて仕舞うとは云わないよ。俺が居なくなっても後の憂いが無いと見極めてからにするし、そのようにちゃんと遺漏なく引継ぎしてからにする」  片久那制作部長は袁満さんを慰めるような事を云って、項垂れている一同をぐるりと見渡すのでありました。「しかしまあ、俺としても自分や家族の向後の事を考えなければならないから、それも六月一杯が限度と云うところになるかな」  そう具体的な期限を切られてみると、一同は片久那制作部長が会社を確実に去ると云う事実に、妙なリアリティーを感じて仕舞うのでありました。  と云う事で、出雲さんの退職の件は片久那制作部長の辞意表明と云う一大事に依って、すっかり翳んで仕舞った風でありました。会社に於ける存在感の大きさからそれは仕方のない事かも知れませんが、頑治さんは何とはなしに出雲さんが気の毒になるのでありました。すっかり主役の座を片久那制作部長に奪われたような..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 469
    2020/06/26 09:03
    あなたのとりこ 469

     片久那制作部長は袁満さんのごく控え目な不満表明に対して、何ら頓着する様子も見せないで後を続けるのでありました。 「袁満君の仕事振りにしても俺にすれば物足りないところが多々ある。他の者に対しても夫々に云いたい事もありはする。しかしそれとは比べものにならないくらいに社長と土師尾常務の態度は、俺にとって許せないものがあると云う事だ」  この制作部スペースに集っている従業員共としては、何だか少しはホッと息を抜いて良いのやら、それとも緊張し続けていなくてはいけないのやら良く判らないような、何とも妙に居心地のよろしくない片久那制作部長の云い草でありました。  皆はもう少し得心が出来るくらいに具体的で生々しい、片久那制作部長が社長と土師尾常務を許せないところの理由を訊き質したいのではありましたか。しかし何となくそれ以上根掘り葉掘り片久那制作部長に言葉を要求するのが、非常に大儀であり不躾であるよう..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 468
    2020/06/24 09:02
    あなたのとりこ 468

     袁満さんが思わず怯むのを確認して片久那制作部長は続けるのでありました。「出張営業にしてもあの人は実情を何も理解していない。単に俺が出している数字を見て、ねちねちと袁満君に難癖を付けているだけだ。あんな大した論拠もない御託に、どうして袁満君が反駁しないのか得心がいかなくて、何時も苛々しながら不思議に思っていたよ」 「まあ、先ずは面倒くさいから、の一言ですかね」  袁満さんは弱々しく一応弁明するのでありました。 「袁満君は小心者だからなあ」  日比課長が先程の意趣返しとばかり皮肉な笑みを頬に浮かべるのでありました。「頭ごなしに強い口調でがみがみ云われると、すぐに金玉が縮み上がって仕舞う」  この日比課長の些か品位に欠ける表現に、甲斐計子女史と那間裕子女史が眉根を寄せてげんなり顔をして見せるのでありました。まあ、日比課長は女性陣に顰蹙を買うような事を態と口の端に上せて面白がると云う、..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 467
    2020/06/22 09:03
    あなたのとりこ 467

    「別に弱みなんか握られてないよ」  日比課長は、これも前に聞いたように憮然として云い返すのでありました。 「土師尾常務に遠慮する事なんか要らないよ」  片久那制作部長が励ますように云うのでありました。「別にあの人は人より仕事が出来る訳じゃない。社長の手前、積極的に営業している振りをしているだけで、その実ただ単に得意先から入る注文を、電話の前で手を拱いて待っているだけに過ぎない。第一あの人に本当に営業力があるのなら、こんなに売り上げが落ちたりはしないよ。物欲しげな顔を晒して、すっかり相手任せに仕事が転がり込むのを待っているだけだ」 「それは間違いなくそうだけど、・・・」  日比課長は頷くのでありました。 「それが判っているのなら、そんな人間をどうして畏れる必要があるの?」 「そう云いますけどねえ、何か一言でも云うと十言くらい云い返されるし、云っている事が一々癪に障るし、煩わしい..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 466
    2020/06/19 09:15
    あなたのとりこ 466

    「じゃあ何を根拠に、大丈夫だなんて安請け合い出来るのかしら」 「制作部に関しては均目君も殆どの見積もりは出来るし、と云う事は制作部でかかっている月々の経費も把握出来るから、取引先から貰った請求書の処理や支払いの方も熟せる。会社に依って銀行振り込みにするか手形にするかは後で教えて置くし、発行する手形の種類とかも原則は簡単だ。新規商品の編集作業も製作も、これは今迄に熟している」 「それはそうですけど、でもちゃんとやれるか自信は今一つだなあ」  均目さんは心許ないような事を云うのでありました。自分でも何とかやれるとは思うのでありましょうが、経験不足と億劫から、少々弱気になっているのでありましょう。 「慣れてくれば特に難しい事じゃない。誰にでも出来る作業だ。多少面倒だけど」  片久那制作部長は均目さんの懸念を掃うのでありました。「それから那間君の方も今迄の仕事をその儘熟すだけだから特に問..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 465
    2020/06/17 09:03
    あなたのとりこ 465

    「社長は会社を畳む心算で、片久那さんにそんな仕打ちをしようとしたのかしら?」  那間裕子女史が小首を傾げるのは社長の本心を量りかねての事でありましょう。 「そうかも知れないけど、社長が自棄を起こして会社を畳んだら、土師尾常務が行き場を失くして困るんじゃないかな。この会社に居ればこその好待遇と勝手放題なんだから」  均目さんが同じく小首を傾げて、土師尾常務の立場に言及するのでありました。 「社長としては会社を放り出す気は今のところ無いんだと思うよ。そこ迄本気で覚悟している訳じゃなくて、どうしたら俺をギャフンと云わせる事が出来るか、その辺の意趣返しの魂胆だけで云っているだけのように思うよ」  片久那制作部長が均目さんの顔を見ながら云うのでありました。 「そんな子供じみた魂胆だけで!」  那間裕子女史が呆れるのでありました。 「でもあの社長の事だから要は後先の考えはなくて、本当に..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 464
    2020/06/15 09:16
    あなたのとりこ 464

    「それは要するに、社長がその暮れのボーナスを巡る一件とこの前の春闘で、俺を心底から煙ったく思ったのか、俺と土師尾常務の待遇に差をつけようとしたからだ」  片久那制作部長はその折の社長の顔を思い出したように、唸る犬のような皺を鼻頭の辺りに寄せて見せるのでありました。  片久那制作部長の話しを掻い摘めば、社長は土師尾常務と片久那制作部長の間の待遇の差を、片久那制作部長が許容出来る範囲を超えて広げようとしたのでありました。要するに事あるに付け様々苦言を呈する片久那制作部長よりは、耳触りの良いお追従を専らとする土師尾常務の方を、残念ながら社長はより愛でたと云う事でありましょう。  おまけに、恐らく未だにモダニズムと弁証法的唯物論の徒たる片久那制作部長は、君君たらずと雖も臣臣たらざるべからず、なんと云う中国の伝統的儒教美学なんぞには見向きもしない人でありましょうから、それはまあ、利害関係者..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 463
    2020/06/12 09:17
    あなたのとりこ 463

     袁満さんが日比課長の思い当る節がありそうな云い方に驚くのでありました。 「昔から社長は株をやっていたよ。まあ道楽みたいなものかな」 「その道楽に、誤魔化した会社の金を注ぎ込んだ、と云う事になる訳ね。酷いわね」  那間裕子女史が憤慨するのでありました。 「それは横領、と云う風にも云えるんじゃないのかな」  均目さんも目を怒らすのでありました。「社員の一時金を出し惜しんで、その分を秘かに会社の業務とは全く関連の無い、株の購入と云う私的な楽しみに遣い込んだ訳だから」 「そう云うところのある人よ、あの社長は。それを別に後ろめたくも思わないし」  甲斐計子女史がシニカルな笑いを浮かべるのでありました。 「その辺を片久那制作部長にジワジワと突かれたら、それは社長もオロオロするしかないかな。下手をすれば犯罪行為と云われ兼ねないからね」  均目さんが甲斐計子女史と同じような笑いを口の端..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 462
    2020/06/10 09:19
    あなたのとりこ 462

    「それはそうですね」  袁満さんが納得気に頷くのでありました。 「そうしたら、実際の数字の三倍の額が計上してある」 「実際の数字の三倍!」  均目さんが大仰に驚いて開けた口を閉じないのでありました。 「そうだ。少し多めに見積もっているから三倍以上と云う事になる」  片久那制作部長は云った後に口を尖らせて頷くのでありました。「次にこちらで見当がつくのが人件費だが、これにしてもそうだ」 「人件費も片久那さんが、従業員全員の一時金の額も、残業代を含めた毎月の賃金も何時も計算しているから、これも確かに誤魔化し様がない数字だわね」  甲斐計子女史が先の袁満さんのように頷くのでありました。 「そうしたらこれも約二倍、迄はいかないけど、それに近い額になっていた」 「二倍に近い額!」  今度は日比課長が口を閉じないのでありました。 「まあ、他の勘定項目に関しても何やかやと問題が一杯..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 461
    2020/06/08 09:03
    あなたのとりこ 461

    「それはどう云う事ですかね?」 「去年の十二月に売り上げが落ちてボーナスを出せないと云う事があったけど、あの時ちょっと会社の決算を調べてみたんだよ。俺もその時は未だ従業員だったから、当然俺のボーナスも出ない訳だから、それは大いに困るから、まあ、結構真剣にね」  片久那制作部長はここで少し笑って見せるのでありました。「それで決算書を出せと云ったら、社長は最初渋っていたけど、従業員の一時金を出さないとなるとそれなりの根拠を示さなければ、それは受け入れられないと強く圧したら、嫌々ながらも出してきた」 「決算書の数字は、片久那さんは初めから知っていたんじゃないの?」  甲斐計子女史が小首を傾げながら訊き質すのでありました。 「いや、決算とか税理とかの、経営に関する事は社長の専任で、俺はノータッチだよ。会社お抱えの公認会計士とか税理士とかと社長が共同でやっていたからね。決算書を作るための色..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 460
    2020/06/05 09:02
    あなたのとりこ 460

    「それにしたって、社長にすればその上乗せ分も、姑息にケチりたいんじゃないのかな。社長は金に関してはえげつなく出し惜しみ屋みたいだから」  袁満さんが頑治さんの観測に少しの疑問を呈するのでありました。 「あの二人は昵懇の仲のように見えて、実は牽制し合っているところもあるからね」  甲斐計子女史が口の端を歪めて憫笑するのでありました。 「まあしかし社長は人一倍体面を気にするくせに、結構なリアリストでもあるからなあ。出雲君の年収分と土師尾常務の報酬を天秤にかけて、年収分より少ない額の報酬を出す方が算盤の上で得なら、気持ちの上では不本意でもそっちの方を選ぶだろうなあ」  日比課長が先の頑治さんの意見に賛意を示すのでありました。 「二人の肚の内なんかどうでも良い」  片久那制作部長が吐き捨てるのでありました。その語気にこの場の皆が気圧されて言葉を失うのでありました。で、現実に引き戻され..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 459
    2020/06/03 09:03
    あなたのとりこ 459

    「出雲君が社長室を出て行った後、残った俺と土師尾常務に向かって、土師尾常務の報酬を上げる事にするとか、社長が急に云い出したんだよ」  片久那制作部長は口重な風情で喋り始めるのでありました。「それはどういう文脈で発せられた言葉なのか、俺にはすぐにはピンとこなかったけど」  とは云うけれど、何に付けても洞察の鋭い片久那制作部長の事だから、屹度すぐにピンときたろうと頑治さんは思うのでありました。 「どうしてそのタイミングでそんな話しが出たんだろう?」  袁満さんが呟くのでありましたが、それはこの場では不必要な一言で、片久那制作部長の話しの腰を折る、と云ったような具合でありましたか。当人もそれに気付いて、ああご免、とこの不謹慎を小声でおどおど謝ってその後は口を噤むのでありました。 「俺も先ずそう思ったよ」  片久那制作部長が袁満さんを見据えるのでありました。「当然考えられるような事とし..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 458
    2020/06/01 09:02
    あなたのとりこ 458

    「何、今朝の出雲君の退職願の話し?」  日比課長は横の出雲さんに喋り掛けるのでありました。 「いやまあ、それとは別っスけど」  出雲さんは何となく返事を濁すのでありました。 「出雲君ばかりじゃなくて、片久那制作部長も会社を辞めると云う話しだよ」  袁満さんが日比課長に眉根を寄せた顔を向けるのでありました。 「え、片久那制作部長も会社を辞める?」  日比課長は目を剥くのでありました。「部長、それは本当ですか?」 「うん。止める」  片久那制作部長が目を剥いた日比課長の顔を見据えて一つ頷くのでありました。 「何でまた、出し抜けにそんな事になったんですか?」 「それを今から訊くために、こうして集まっているんだよ」  袁満さんが日比課長に応えてから片久那制作部長の方に顔を戻すのでありました。 「今話した出雲君の退職金の事にしてもそうだが、合理的な展望も無く相手の弱気とか面..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 457
    2020/05/29 09:14
    あなたのとりこ 457

     片久那制作部長がこういう云い方をするのは、その話しは知ってはいたけど、自分は加担する心算は毛頭無かったと云う事を言外に明示していると云う事でありますか。 「これに限らず土師尾常務の遣り口と云うのは、何時も薄汚いよなあ」  袁満さんが顔を顰めるのでありました。 「均目君が今云ったけど、社長も結託していると云うのはその通りだ」  片久那制作部長は話しを続けるのでありました。「寧ろ社長の方が一枚上手で、そう云う社長の意を受けて、土師尾常務がその実現にせっせと動いていると云って良いだろう」 「と云う事はつまり、社長が出雲君の退職金を払わないで済むように処置しろと、土師尾常務に命じたと云う事ですか?」  袁満さんは片久那制作部長を凝視するのでありました。 「はっきり命じたと云うんじゃない。どうせなら払わないで済ませた方が会社としては助かるなあとか、そう云う仄めかしをして、それとなく仕..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 456
    2020/05/27 09:02
    あなたのとりこ 456

    「出雲君に何か瑕疵があって辞める訳じゃないからな」 「で、片久那制作部長は社長室に入って先ずは、要するに正義感から、出雲君に難癖をつけている土師尾常務に、そう云う陰湿な真似は止めろと云ったんですか?」  均目さんが、正義感、と云う言葉に多少の揶揄を込めてか込めないでか、何となく言葉の遣り取り中にすんなりと収まりがよろしくないような云い草をするのでありました。  片久那制作部長はその均目さんの言葉付きに対して、不愉快そうに眉根を寄せるのでありましたが、敢えて無関心を貫いて何も返答しないのでありました。 「片久那制作部長が突然入って来たものだから、驚いた土師尾常務がまごまごして俺を詰るのを中断してくれて、俺としてはすごく助かりましたっスよ。ちょっと肚の中でムカムカしてきていたところだったから、あれ以上土師尾常務の詰りが続いていたら、ひょっとしたら俺は歯向かうような事を竟、口走っていたに..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 455
    2020/05/25 09:03
    あなたのとりこ 455

     三人共に一様に緊張の面持ちをして、マップケースを背にして片久那制作部長の右斜め前に、袁満さんが先頭で、次に甲斐計子女史、出雲さんの順に居並ぶのでありました。 「未だ日比さんが営業回りから帰って来ていないが、ちょっと俺から皆に話しておきたい事があるんだが、先ずは今日の社長室での事だ」  片久那制作部長は右側の今来た三人と、左側の夫々の席に座って、椅子を回して自分の方に顔を向けている制作部の三人を眺め回すのでありました。別に勿体を付けているのではないのでありましょうが、その目線に場の緊張がいや増すのでありました。 「社長室で一体何の話をしていたんですか?」  袁満さんが訊くのでありました。 「だから今からそれを話す」  片久那制作部長は、不必要な質問を差し挟むな、と云う言外の叱責を袁満さんに向けるのでありました。袁満さんはおどおどと額に脂汗を光らせて畏れ入るのでありました。その袁..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 454
    2020/05/22 09:02
    あなたのとりこ 454

     頑治さんとしては片久那制作部長が居なくなった後、会社が上手く回っていくのかどうか大いに気掛かりなのでありました。片久那制作部長と云う存在は、要するに扇の要のようなものでもあり、制作部に限らず、会社が会社として成立しているための結束点とでも云うべきでありましょう。要を失って仕舞うと、扇は扇でなくなるのであります。  出雲さんが辞職すると云う既定の事実は、片久那制作部長のこの降って湧いたような衝撃的な発表に依って、頑治さんと均目さんと那間裕子女史の頭の中からすっ飛んで仕舞うのでありました。全く予期しなかった新しい展開と云うものであります。  那間裕子女史が不機嫌そうに片久那制作部長の顔を窺い見るのでありました。 「抑々、何で急に会社を止める気になったのかしら?」  これは質問と云うよりは、取りように依っては詰問の口調でありましたか。 「急に自棄を起こしたんじゃない。ここにきて竟..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 453
    2020/05/20 09:02
    あなたのとりこ 453

    「さあ知らない。それはもう俺には関わりの無い事になる」  片久那制作部方は不愉快そうに慎につれない事を云うのでありました。 「そんな無責任な」  那間裕子女史が憤慨したような目で片久那制作部長を睨むのでありました。その視線に臆した訳ではないでありましょうが、片久那制作部長は苦笑うのでありました。 「まあ、常務を中心に纏まって会社を盛り立てていって貰う事になるだろうよ。制作の仕事は既存の地図とか冊子類、それに工作物に関しては修正作業とかはこれ迄遣っていた通りだから問題無いだろう。商品管理や材料管理に関しては唐目君が疎漏なくちゃんと心得ているから、唐目君と密に打ち合わせを取っていれば、材料や商品類の発注とか製本関連の仕事も、つまり営業とのスムーズな連関も、均目君はなんとか熟せる筈だ」 「しかし制作部全般の管理とかなると、ちょっと自信が無いですよ」  均目さんが眉根を寄せるのでありま..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 452
    2020/05/18 09:02
    あなたのとりこ 452

     片久那制作部長はこれまで見た中で最上級の不機嫌顔をしていて、ぞんざいな手付きで椅子を引き出して、何だか嫌に荒々しい喧嘩腰を見せて椅子を軋ませながらそこに座るのでありました。頑治さんは丁度倉庫に行こうとしていたのでありましたが、片久那制作部長の妙に荒けない様子に何となく憚りを覚えて、こちらはなるべく音を立てないように椅子から立ち上がって、極力静穏且つ丁寧に椅子を机の中に仕舞うのでありました。 「唐目君は倉庫に行くのか?」  片久那制作部長が不意に頑治さんに声をかけるのでありました。 「ええ。明日池袋の宇留斉製本所に行く用意がありますので」 「それは後にしてくれるか。ちょっと話しがある」  片久那制作部長の言は懇願の口調と云うよりは命令調でありました。「唐目君だけじゃなくて、那間君も均目君も一緒に聞いてくれ」  那間裕子女史はその日の夜は確か調布のアジア・アフリカ語学院での授業が..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 451
    2020/05/15 09:03
    あなたのとりこ 451

     頑治さんが袁満さんの顰め面を何となく見遣りながら訊くのでありました。 「まあ特にはないけど、何となくこっちも終業時間になっても帰り辛いわよねえ」  那間裕子女史が、云った後にそうなると決まったように溜息を吐くのでありました。 「その辺は、片久那制作部長はちゃんと判っているんじゃないの」  均目さんが那間裕子女史の憂い顔に笑いかけるのでありました。「若しそんなような形勢なら、社長室にインターフォンで連絡してみれば良い事だし」 「それはそうだけど、・・・」  那間裕子女史は一応頷くけれど、憂い顔は未だその儘なのでありました。「でも片久那さんが仕事そっち退けでこんなに長い時間自分のデスクを空けるのは、今迄なかった事だわね。少なくともあたしが会社に入ってからは初めてじゃないかしら」 「何か重大な話しをしているに違いないけど、その重大な話しの見当が付かない」  那間裕子女史の憂い顔..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 450
    2020/05/13 09:02
    あなたのとりこ 450

     袁満さんが日比課長は良いとしても、社長や片久那制作部長、それに何より土師尾常務が参加する送別会の企画に対して、少し体を斜にして見せるのでありました。その三者が参加すれば和気藹々の雰囲気が削がれると危惧するのでありましょう。 「何より出雲さんが、社長や片久那制作部長、特に土師尾常務も交えての送別会にはちょっと尻込みすると云うのなら、その辺は考慮するべきだとは思いますが」  出雲さんが土師尾常務と同道した営業仕事の一件で会社を辞す最終決断をしたと云うのなら、それは当然自分の送別会に土師尾常務が同席するのはまっぴらご免と云った心持ちであろうかと考えて、頑治さんは敢えてそんな事をものしてみるのでありました。 「それもそうかなあ」  均目さんが頑治さんの発言に理解を示すのでありました。 「確かに出雲君としては、土師尾さんの顔を見ながら楽しいお酒は飲めないわね」  那間裕子女史も同調する..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 449
    2020/05/11 09:15
    あなたのとりこ 449

    「未だ土師尾常務も片久那制作部長も帰って来ないぜ」  袁満さんは昼食から返って来た三人を見回して呆れたように云うのでありましたが、その目は明らかに大袈裟なくらいの動揺を宿しているのでありました。 「お昼になったから、三人で一緒にご飯を食べに行ったんじゃないの?」  那間裕子女史が袁満さんの小心を鬱陶しがってか、すげなく返すのでありました。 「いや、俺も昼飯を食いに出て行く時と帰って来た時に、ちょっと社長室の前迄行ってみたけど、ずうっと中に居て三人で話し込んでいる気配だったよ」 「出雲君が社長室から一人出て来る時は、別に変った様子はなかったんだよねえ」  均目さんが袁満さんのそわそわ顔から目を逸らして、その肩越しに自席に座ってスポーツ新聞を眺めている出雲さんの方に視線を遣って訊くのでありました。 「そうですね。特に変わった様子はなかったですねえ」  出雲さんは顔を上げて愛想笑..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 448
    2020/05/08 09:02
    あなたのとりこ 448

    「それはつまり土師尾さんと片久那さん二人の、自分達の待遇に関する何事かが急に、出雲君が出て行った後に社長から提示されたと云う事かしらね。そうじゃないと仕事そっち退けでこんなに長く社長と談判なんか、あの二人はしないんじゃないかしらね。逆にそう云う事なら、あの二人なら平気で仕事をそっち退けするって事だけど」  那間裕子女史が別に皮肉を云う風でもなく至ってクールに云うのでありました。 「まあ、いざこざの種は何時も社長が蒔くとは限らないし、寧ろそれは土師尾常務のお家芸で、出雲君を予定通り退職に追い込んだんだから、何かご褒美を寄越せとか捩じ込んでいるのかも知れない。片久那制作部長も多分それに同調しているんだろう」 「恥知らずの土師尾さんならそんな事も遣らかしかねないけど、片久那さんがそこ迄如何にも浅ましい要求を社長にするかしら。かなり偏屈な人だけど、筋は通すし結構義理人情を重んじるみたいだし、..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 447
    2020/05/06 09:15
    あなたのとりこ 447

     袁満さんの言葉の後に夫々は自席に戻るのでありました。どう云うものかそれを待っていたかのように営業部の方でも制作部の方でも電話の呼び出し音が鳴り出すのでありました。頑治さんは均目さんが素早く受話器を取って、はい贈答社です、と応答の言葉を電話の向こうに投げているのを聞きながら、甲斐計子女史の席の横辺りにある制作部用の扉から急に何時も同様に慌ただしくなってきた事務所をそろりと出るのでありました。  昼休みになっても、社長と土師尾常務、それに片久那制作部長の三人の話し合いは続いている気配でありました。これ迄になかった、嫌に長々しい談合であります。 「来客があったから、片久那制作部長はあの後、一端事務所に戻って来たけど、接客が済んだらまたすぐそそくさと社長室に戻って行ったよ」  昼休みに頑治さんと均目さんと那間裕子女史の三人で、錦華公園近くの日貿ビルの地下にある四川飯店で昼食を摂っている..

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    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 446
    2020/05/04 09:14
    あなたのとりこ 446

    「まあ、そういう事になると思います」  出雲さんは那間裕子女史の顔を見上げて頷くのでありました。「で、一応社長にも挨拶したから、許しを得て深々と一礼してから引き上げて来たんですよ」 「経営陣三人は社長室に居残って、一体何を話し合っているんだろう?」  均目さんが腕組みして小首を傾げるのでありました。 「出雲君が居なくなった後の地方特注営業をどうするのか、その辺を話し合っているんじゃないかな。それに関連して新しい人を雇うかどうかとか、そんな事も」  袁満さんが公式的でありきたりな推測を述べるのでありました。 「それはどうですかねえ」  均目さんが傾げた小首を元に戻して即座に疑問を呈するのでありました。どだい地方特注営業と云うのは出雲さんを辞めさせるために考え出した方便みたいな仕事でありましょうから、出雲さんが辞めた後にまたそれに付いてどうこうする心算は土師尾常務にも社長にも、そ..

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  • あなたのとりこ 445
    2020/05/01 09:03
    あなたのとりこ 445

     要するに袁満さんとしては、自分の部下のような存在だった出雲さんが愈々会社を辞める事を公然化した事に、矢張り平静ではいられないのでありましょう。だから那間裕子女史や日比課長の言葉が如何にも無神経で不謹慎で苛立たしく聞こえて、竟々過敏な反応をして仕舞うのでありましょう。まあ、判るような気が頑治さんはするのでありますが。 「別に突っかかってなんかいないよ」  袁満さんは日比課長を見ないで、しかしこれも不機嫌な口調で云うのでありました。 「片久那制作部長は一体どういう役回りを今、下で演じているんだろう」  均目さんが顎を撫でるのでありました。 「例に依って、これ以上ないと云うような仏頂面で一言も喋らないで、兎に角立ち会う、と云ったスタンスでその場に座っているんじゃないのかしらね」  那間裕子女史が社長室の様子を想像するのでありました。 「そうやって腕組みとかされて片久那制作部長に不..

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  • あなたのとりこ 444
    2020/04/29 09:02
    あなたのとりこ 444

     この日比課長の話しの中の、ネコに追い詰められた鼠、と云う件で頑治さんは全く無関係な事ではありましたが、自分のアパートの部屋に夕美さんが置いて行ったネコのぬいぐるみを頭の中に思い浮かべるのでありました。夕美さんの命令に依りあのネコのぬいぐるみは頑治さんの監視役として部屋に残されたのでありますから、まあ、追い詰められてこそいないけれど、頑治さんはさしずめ鼠の役回りと云う事になりますか。  そこに那間裕子女史がようやく出社して来るのでありました。那間裕子女史は全くあっけらかん、という風でなないけれど、妙にいじけたり不貞腐れたりとかするところもなく、云ってみれば遅刻の熟達者のような、陰湿にはならない、或る意味で堂々たる忌憚としおらしさとを体現しながら編集部スペースに入って来るのでありました。 「あら、片久那さんは今日はお休み?」  片久那制作部長の机から遅刻した自分に向けられる毎度の険..

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  • あなたのとりこ 443
    2020/04/27 09:14
    あなたのとりこ 443

     片久那制作部長が事務所を出て、ドアが完全に閉まる音を聞いてから均目さんが頑治さんの方に顔を向けて話し掛けるのでありました。 「社長室の中で土師尾常務と、それに社長と片久那制作部長も含めて、三人で出雲君を取り囲んで一体何を話し合うんだろうな?」 「三人で出雲さんを取り囲んで、と云うのは、場の雰囲気を表現する言葉としてちょっと違うかも知れない。後から加わる片久那制作部長の立ち位置が、土師尾常務や社長と同じ側にあるのか、それとも出雲さんの側にあるのかちょっと判断出来ないからなあ」 「しかし出雲君を引き留めに掛かるとは思われないだろう。元々出雲君を辞めさせる魂胆が土師尾常務にあって、それに積極的に賛成している訳じゃないけど、かと云って反対もしていないと云うのが、片久那制作部長のスタンスと云う事じゃなかったっけ?」 「まあ腹積りとしてはそんな辺りだとしても、それなら出雲さんの件は営業の責任..

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  • あなたのとりこ 442
    2020/04/24 09:15
    あなたのとりこ 442

     頑治さんは出雲さんと土師尾常務を見送った後、倉庫に下りる前に編集部の方にある自分のデスクに発送指示書を持って一端行くのでありました。 「出雲君が会社を辞めるのか?」  片久那制作部長が、自分のデスクに発送指示書を置いて座ろうとする頑治さんに訊くのでありました。と云う事は、出社して早々と云う事もあって、均目さんから出雲さんが会社を辞める決断を下したと云う件を未だ聞いてはいないのでありましょう。因みに那間裕子女史は例に依って多分朝寝坊で、未だその顔はこの場にはないのでありました。 「今、退職願いを出したようです。それで少しその件について話そうと云う事になって、土師尾常務と二人連れ立って外に出て行ったのです。行先は告げられていませんが、多分出雲さんは社長室に連れて行かれんじゃないですかね」  頑治さんの説明を聞いて片久那制作部長は、ふうん、と云うように少し下唇を突きだして微かに頭を上下..

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    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 441
    2020/04/22 09:03
    あなたのとりこ 441

    「未だ夏休み迄は時間があるから、色々じっくりお互いに摺り合わせして、何とか目論見通り二週間一緒に夏を過ごしましょうよ」  夕美さんはそう云いながら頑治さんの手を握るのでありました。頑治さんとしてもこの先の夕美さんとの逢瀬の算段が付いたような気になって嬉しくなるのでありました。  列車が入線するぞと云うアナウンスが頭上に響くのでありました。夕美さんと頑治さんは下に置いていた夕美さんの旅行カバン二つを夫々取るのでありました。愈々これでゴールデンウィークの夕美さんとの逢瀬は終わるのであります。  夕美さんの頑治さんと繋いでいる手に力が籠るのでありました。頑治さんもそれに応えて強く握り返すのでありました。上手くゆけばまた三か月もしない内に逢えるのではありますが、頑治さんとしては矢張り夕美さんとの別れが寂しいのでありました。夕美さんも名残り惜しそうに頑治さんの顔を見上げているのでありました。 ..

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  • あなたのとりこ 440
    2020/04/20 09:02
    あなたのとりこ 440

    「そう云ってくれると少し気が楽になる」 「今度会えるのは何時になるかな」 「そうね、夏休みと云う事になるけど、頑ちゃんは夏休みはどうなるの?」 「会社で一斉に休むと云う感じじゃなくて、七月か八月の適当なところで仕事との兼ね合いで夫々取ることになる、と云う風に聞いているよ」 「日取りなんかは未だはっきりしないわよね?」 「まあ早い目に申し出ておけば社内で色々都合が付けられると思うけど」  倉庫の仕事や定期不定期を含めて配達や梱包配送なんかは、出雲さんが居なくなるので、業務を代行して貰えるのは袁満さんか手の空いた時の日比さん辺りでありましょうか。編集の方に関しては均目さんと那間裕子女史、それに片久那制作部長も含めて四人で日取りを擦り合わせして交代で休む事になるでありましょうか。 「期間はどのくらい取れるの?」 「何でも夏休み自体は三日間なんだけど、今迄の慣習だとその後二日間有給..

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  • あなたのとりこ 439
    2020/04/17 09:02
    あなたのとりこ 439

    「そうね、ぼちぼち昼席と夜席の入れ替え時間になるわよね」  夕美さんも自分の腕時計に目を落とすのでありました。  所在なく夕美さんと二人で寄り添って末廣亭の前で入場時間を待っているのも、それ程つまらない時間でもないと思っていたのでありましたが、どうしたものか甲斐計子女史の姿を見付けて目が合ってから、頑治さんはこうして往来で夕美さんと二人で無防備に身を曝しているのがちょっと苦痛になるのでありました。それは甲斐計子女史に見つかったのだから、食事とその後の出雲さんの送別会がてらの飲み会をやらかそうと云う他の会社の連中にも、ひょっとしたらここで出くわすかも知れないからでありました。まあ可能性は低いのでありましょうけれど、しかし絶対無い事とは云い切れないでありましょうか。  だからと云っておどおどする必要は無いとは思うのであります。見つかったとしても、大いに照れて見せればそれで済む話しでありま..

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  • あなたのとりこ 438
    2020/04/15 09:15
    あなたのとりこ 438

     と云う訳で結局二人は喫茶店に行く事もせず、末廣亭の前で何となく夜席の開演時間を待っているのでありました。一人ぽつねんと待っているのではなく二人で何やら四方山話ししながら寄り添って待っているのは、頑治さんも夕美さんもそんなに苦痛ではないのでありました。気候も寒くも暑くもないのでありましたし。  ただ全くの計算違いであったのは、恐らく都営地下鉄の新宿三丁目駅に向かうのであろう先程別れた甲斐計子女史と出くわした事でありました。もうとっくに新宿を立ち去ったものと思っていたのでありましたが、どこかで寄り道をしていたようで、どうしたものか末廣亭の前を今時分に通るとは頑治さんは思いもしなかった事でありました。  甲斐計子女史も頑治さんに気付いたようで、頑治さんの方に笑みかけようとするのでありましたが、傍に恐らく頑治さんの連れであろう見知らぬ女性が居る事に気付いて、笑みを作り始めた頬の表情筋の動きを..

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  • あなたのとりこ 437
    2020/04/13 09:03
    あなたのとりこ 437

     夕美さんは落語家の名を記した幟のはためく末廣亭の出入口辺りに立って、何をそんなにと云うくらいせっかちに行き交う往来の人通りを眺めるともなく眺めながら、つんと澄ましたような無表情で頑治さんを待っているのでありました。 「随分待たせたかな?」  目の前に立つ迄頑治さんに気付かなかった夕美さんは、そう声を掛けられて一瞬驚きの表情をするのでありましたが、すぐに頑治さんと認めて相好を崩すのでありました。 「ううん、そうでもないけど」  夕美さんは首を小さく何度か横に振るのでありました。 「未だ昼席が終わらないか」  頑治さんは腕時計に目を落とすのでありました。 「そうね。でも入場券は買って置いたわよ、二枚」  夕美さんは左肩から右腰に袈裟に掛けていた黄色のポシェットから、入場券を二枚取り出して頑治さんの目の前に示すのでありました。 「夜席まで何処かで間を潰すにはちょっと時間が少な..

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  • あなたのとりこ 436
    2020/04/10 09:02
    あなたのとりこ 436

     均目さんが頑治さんの付き合いの悪さを当て擦って冷ややかな云い草をするのでありました。何だか頑治さんが自分の都合を何より優先させて、出雲さんの事をちっとも親身に考えていないところを皮肉っぽく責められているような具合であります。  しかし実際、別に出雲さんの辞意を何が何でも翻させる気も無かったのなら、態々自分を今日ここに誘う必要は無かったのではないかと頑治さんは思うのでありました。頑治さんはもう既に昨日、池袋の喫茶店に出向いて出雲さんの辞意を直接確認したのでありましたし、結局今日も同じ事の繰り返しに過ぎなかったのでありますし。 「じゃあ、お言葉に甘えて俺はこれで帰るよ」  頑治さんは均目さんに無愛想に云うのでありました。 「あたしも帰ろうかな」  甲斐計子女史が頑治さんに倣うのでありました。 「甲斐さんはこれから何か用でもあるの?」  袁満さんが訊くのでありました。 「別に用..

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    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 435
    2020/04/08 09:03
    あなたのとりこ 435

    「出雲君の辞意に対して、皆それを尊重すると云う事で良いのかな」  均目さんが話しの筋道をやや戻すのでありました。 「辞めるか辞めないかは、あくまでも出雲君の自由意志だもの」  那間裕子女史がここで原則論をものすのでありましたが、その言葉に、結局ここに集う意味は特に無かったと云う事じゃないかとの、無力感と云うのか徒労感と云うのか、そう云った遣る瀬無さを更に頑治さんは心の底で強めるのでありました。であるのなら、久し振りに実現した夕美さんとの一時を犠牲にした甲斐が無いと云うものであります。ここに集ったのは、出雲さんの辞意を覆させるためではなかったのではありませんか。  まあ、何れにしてもこう云う話しの結論を見たのなら、この辺で会合を打ち切っても良いでありましょう。そう考えて頑治さんは内心ソワソワし出すのでありました。 「じゃあまあ、出雲君に関する話しはこれで済んだと云う事にして良いのか..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 434
    2020/04/06 09:02
    あなたのとりこ 434

    「そんな事をされると困るわよ。早く座って」  那間裕子女史が慌てて差し出した両手の、掌を下に向けて上下に何度も動かして出雲さんに着席するように促すのでありました。出雲さんはそれに従って素直に腰を下ろすのでありましたが、座った後でまた恐縮のお辞儀をして見せるのでありました。  那間裕子女史と均目さんは、当初は出雲さんの退職を何とか思い止まらせようと云う意気込みでこの会合を持ったのでありましょうが、逢った端から出雲さんの決意の固さに気圧されて諦めたと云った風でありましたか。であるのなら自分が、同席せよとたって頼まれて夕美さんと久し振りに一緒に居られる時間を犠牲にして迄この会合に出て来たのは、一体何の意味があったのだろうかと頑治さんは胸中で溜息を吐くのでありました。まあしかし無表情を決め込んでそう云う憤慨は露骨に顔には表さないのでありましたけれど。 「出雲君、矢張り辞めるんだ、会社を」 ..

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  • あなたのとりこ 433
    2020/04/03 09:03
    あなたのとりこ 433

    「要するに土師尾さんの顔を、一刻でも早く見納めたいと云う事でもあるのね?」  那間裕子女史が確認するのでありました。 「勿論それもあります。でも第一番には、もう本当に、今の会社で働く意欲がすっかり失せたんですよ。会社に未だ残っている皆さんの前でこういう云い方をするのは、ちょっと申し訳無いような感じは何となくするっスけど」  出雲さんは額がテーブルの上のコーヒーカップに付くくらいの一礼をして見せるのでありましたが、これは心からの恐縮の表明なのでありましょう。 「別にあたし達に対して殊更申し訳無く思う必要は無いけど。・・・」  那間裕子女史は出雲さんの後頭部に向かって声を掛けるのでありました。恐懼する出雲さんの姿が気の毒に見えてきたようであります。 「折角組合が出来たのに、春闘を終えたところで途中で抜けるのも、何だか裏切りを働いているようで、皆さんに対して済まない気持ちになります」..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 432
    2020/04/01 09:02
    あなたのとりこ 432

    「と云う事は、先方もあれこれ気には掛けてくれているって事か」 「そんな感触っス。まあ、片久那制作部長への気遣いもあるでしょうから」 「そっちの方の仕事もうっちゃって会社を辞めるのか、出雲君は?」  均目さんは出雲さんに対する糾弾としてその話しを収めるのでありました。そう云う風に話しが導かれた事が出雲さんは少々不本意のようでありましたが、それに間違いはないと考えるのか不愉快そうな表情をするものの抗議の言は返さないのでありました。 「それはちょっと酷な云い方じゃないの」  那間裕子女史が頑治さんに後頭部を見せて、自分を挟んで頑治さんの向う側に座っている均目さんの方に顔を向けるのでありました。 「そっちの仕事は日比さんにでも引き継げばいいんだから、別に無責任に放ったらかしにして辞める、と云うんじゃないんじゃないかなあ」  袁満さんが出雲さんの代わりに抗弁するのでありました。 「で..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 431
    2020/03/30 09:03
    あなたのとりこ 431

    「じゃあ、そう云う事にしようか。何だか夕美に悪いような気がして仕方がないけど」 「ううん、そんなに気にしないで。大体あたしは頑ちゃんと何処かに出掛けるよりも、二人きりでお家でウダウダしている方が好きなんだもの」  夕美さんがニコニコと笑って頑治さんの腕に取り縋って、その腕にしなだれかかって顔を寄せるのでありました。そう云う夕美さんの望みにしても申し訳無いながら叶えてやれない模様でありますが、夕美さんの方はあくまでしおらしいのでありました。  新宿駅東口を出て歌舞伎町のだらだら坂を抜け、靖国通り沿いに暫く歩くと目指す喫茶店が見えるのでありました。同じ名前の店が紀伊国屋書店の裏の辺にも在るのでありましたが、頑治さんはそちらの方は入った事がないのでありました。  頑治さんは一時に十分程遅れてその喫茶店に到着したのでありました。なかなか広い地下フロアながら、すぐに那間裕子女史と均目さん..

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    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 430
    2020/03/27 09:02
    あなたのとりこ 430

     要するに、まんまと那間裕子女史に押し出し強く、自分の気の弱さに付け込まれて仕舞ったような図でありますか。やれやれ。・・・ 「遅れるのは構わないわ。兎に角こちらの人数が多い方が、出雲君に対して辞めないで欲しいと云う説得力が増すし、それが一番の狙いだからね」 「ああ成程。それはそうかな」  またもや頑治さんは迂闊な科白をここで重ねて仕舞うのでありました。これで目出たく頑治さんが新宿の指定の喫茶店に行く事が決定されたと云う訳であります。  頑治さんは那間裕子女史からの電話を切った後、面目無さそうな目をして横で成り行きを窺っていた夕美さんを上目遣いに見るのでありました。 「何だか話しの様子から、臨時の集まりがあって、そこに行く事になったみたいね」  頑治さんは眉根を寄せて本意ではない事を表しながらも頷くのでありました。 「折角こうして久し振りに夕美と二渡で過ごしている最中だと云うの..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 429
    2020/03/25 09:03
    あなたのとりこ 429

    「何よ、誤魔化す心算?」 「そう云う訳じゃないですが、兎に角、先ず要件の方をお願い出来ますかね」  頑治さんは那間裕子女史の機嫌を損ねない程度を計量しながら、やや無愛想な調子で先の話しを要求するのでありました。 「出雲君と連絡が付いて、これから逢う事になったのよ」  那間裕子女史は電話の先の、頑治さんの上擦っているに違いない表情辺りに大いなる興味は引かれるけれども、そうまで触れられたくないと云うのなら一先ずそれに関しては無関心を装ってやる、と云った風の何だかちょっと恩着せがましい語調で云うのでありました。まあ、頑治さんにはそうに聞こえたと云う事でありましたけれど。 「出雲さんと逢って決意の程を確かめる、と云うことですかね?」 「均目君も一緒にね。それに袁満君も来ると云うの」  と云う事はお前も来いと云う事かと頑治さんは眉根を寄せるのでありました。 「袁満さんは昨日もう出雲君..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 428
    2020/03/23 09:02
    あなたのとりこ 428

    「じゃあ、そう云う事で決まり」  頑治さんは人差し指を顔の前に立てて断定調に云うのでありましたが、人差し指を立てる動きに関しては別に何か特段の意味がある訳ではないのでありました。  出かけるまでの時間、夕美さんはこの部屋に監視のため残していたネコのぬいぐるみを弄びながら過ごすのでありました。役目ご苦労、この先も頼む、と云う慰撫と激励でありましょうか。であるならこの後、伊東静雄の詩集と野呂邦暢の小説を手に取ったなら、間違いなく頑治さんに対する監視連中への秘かな慰撫と激励と云う事になるのでありましょうが、しかしこの二冊の本には別に手を伸ばす気はないようでありました。  もう今にも出掛けようとしている時に、再び電話の呼び差し音が鳴り出すのでありました。頑治さんは瞬間嫌な顔をするのでありました。ひょっとしたら出掛ける迄の間に無粋な電話機がまたもや騒ぎ出すのではないかと云うのは、頑治さんが..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 427
    2020/03/20 09:03
    あなたのとりこ 427

     頑治さんは場の雰囲気を変えるために伸びをして見せてから、勢いを付けて上体を起こすのでありました。釣られて夕美さんも、こちらは少し大儀そうに布団の上に横座りに座るのでありました。昨夜寝酒で飲んだワインが未だ少し頭に残っているせいか、夕美さんは人差し指で蟀谷を押しながら眉根を寄せるのでありましたが、久しぶりの逢瀬であるからか、こういう仕草も頑治さんには如何にも可憐に見えて仕舞うのでありました。  先ず頑治さんが顔を洗って着替えをして、その後に夕美さんが続くのでありました。何かと色々洗顔一つにも手間をかける女性であるためか、それとも蟀谷の痛みがやや強いのが主因であるのか、夕美さんは頑治さんの約二倍の時間を使って洗顔と着替えを済ませるのでありました。顔を洗った夕美さんは少しサッパリしたようでありました。 「もうこの時間になると朝食のタイミングは逸して仕舞ったし、昼食には未だ随分早いから、早ま..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 426
    2020/03/18 09:02
    あなたのとりこ 426

    「まあ筋として、連休明けに土師尾常務に辞表を出す前に、組合に対して一応の説明、と云うのか話し合いを出雲さんに求める、と云う事で良いんじゃないですかね」 「出雲君の会社を辞める意志が固いと云うのなら、それでも構わないけど。・・・」 「何だったらそのように、俺から出雲さんに電話をしておきますよ」 「判ったわ。でも出雲君の声も聴きたいから、あたしの方から電話をしてみるわ」 「ああそうですか。誰が電話しようとそれは別にどうでも良いと思いますから、若しお手数でなかったら那間さんから電話をして貰っても構いませんよ」 「出雲君に電話をして、その結果も皆にあたしから電話するわ」 「ああそうですか。それならそう云う事でお願いします。まあ、その結果お知らせの電話を頂くのは、連休最終日でも構わないですけれどね」  頑治さんは言外に、今日はもう、折角の自分のプライベートな時間を電話で潰してくれるなと..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 425
    2020/03/16 09:16
    あなたのとりこ 425

     均目さんと頑治さんの電話をすぐ横で聞いていてもいたし、その後の均目さんが話す内容の要領の掴めなさに苛々してか、それとも単に自分の耳で頑治さんの証言を確認のため再度聞こうとしてか、均目さんが置いた受話器を今度は自分が取って、こうして頑治さんに手ずから電話をしてきたと云う事かも知れません。となると二人は朝っぱらから一緒に居ると云う事になりますが、朝寝坊の那間裕子女史がこんな早くに均目さんの家を訪う事はないと見做すのが自然と云うもので、となると昨夜からそこに居たのでありましょう。まあこれはあくまで頑治さんの勘と云う域を今のところは出ないのではありますけが。 「池袋のその喫茶店で、三人で一体どんな話しをしたの?」 「まあ要するに、出雲君が会社を辞めるその意が固いと云う辺りに尽きますよ。俺もその後でちょっと用事があったものだから、一時間も話しは出来ませんでしたし、じっくり出雲さんの意中を質すと..

    汎武

    はなし汎武ん

  • あなたのとりこ 424
    2020/03/13 09:02
    あなたのとりこ 424

    「やれやれ、折角のんびりと朝寝を決め込もうと思っていたのに、早朝から妙な電話で意に反して早起きさせられて仕舞ったなあ」  頑治さんは欠伸をするのでありました。 「そんなに早起きでも無いわよ」  夕美さんが枕元の目覚まし時計を手に取って、先ず自分が文字盤を凝視してから頑治さんの顔の前に近付けるのでありました。時計の針は九時を少し過ぎたあたりを指しているのでありました。これは成程、全く早朝と云うのではない訳であります。 「まだ起きないの?」  頑治さが再びごろんと布団の上に寝そべるのを見て、今度は夕美さんが片肘をついて上体を少し起こしてから云うのでありました。 「寝ようと思えば幾らでも寝る事も出来そうだけど、この儘惰眠を貪ると云うのも勿体無いと云えば勿体無いか。折角夕美と一緒に居ると云うのに」 「あたしは別にこの儘惰眠の方でも構わないけど」  夕美さんはそう云いながら、少しだけ..

    汎武

    はなし汎武ん

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